小沢闘争継続“偽装一兵卒”再び天下獲りへ冬眠作戦

民主党代表選で大敗した小沢一郎前幹事長(68)の動向が注目されている。開票直後に「一兵卒で頑張る」と宣言したが、剛腕政治家がこれで死ぬわけがない。「衆参ねじれ」や「円高・株安」といった難題に直面する菅直人首相(63)と距離を置きながら、国会議員200票を集めた戦闘力を維持・補強して、菅執行部が行き詰まった時の「天下獲り」を狙っているのだ。いわば、小沢流「冬眠作戦」といえそうだ。

 「敗れたが、今後とも一兵卒として民主党政権を成功させるために頑張っていく。どうか、皆さんのご指導を賜りたい」

 小沢氏は代表選後の14日夕、衆院議員会館で開かれた陣営の集会で、満面の笑顔でこうあいさつした。これまで、小沢氏は何度も「一兵卒」という言葉を使ってきたが、それは「体制側に入らず距離を置く=反体制に回る」を意味する。

 今年6月、「脱小沢」の目玉人事とされた枝野幸男氏(46)に幹事長を引き継いだときも、「一兵卒として参院選勝利に微力を尽くしたい」と語ったが、会談はわずか2分で打ち切った。その後、今回の代表選を視野に着々と戦力を蓄えてきたのだ。

 陣営集会では小沢氏以外にも、鳩山由紀夫前首相(63)や輿石東参院議員会長(74)、山岡賢次選対事務総長(67)らが次々にあいさつに立ったが、誰からも「挙党態勢」という言葉は聞かれなかった。

 「菅圧勝」「小沢大敗」と大々的に報じられた代表選だが、小沢氏や周辺は意気消沈しているわけではない。昨年春以降、東京地検特捜部やマスコミに「政治とカネ」の徹底追及を受け、小沢氏のイメージは決定的に悪くなっていた。

 国民世論に近い党員・サポーター票で、小沢氏は51ポイントしか取れず、249ポイントの菅首相に大差をつけられたが、これには「小選挙区ごとの総取り方式」のマジックがある。得票数では「小沢9万票、菅13万票」と4対6の割合で、小沢氏側近は「厳しい世論の中、これだけ多くの党員・サポーターが『小沢一郎』と書いてくれた意味は大きい。まだ、小沢一郎という政治家は死んでいない」と分析。

 小沢氏も周囲に「そんなに負けていないんだな」と語り、自信をにじませたという。

 当面、小沢氏が取り組むのは、10月にも2度目の議決が出る検察審査会検審)への対応だ。近く、特捜部の事情聴取にも応じる予定。もし、審査会で「起訴相当」議決が出れば、強制起訴となり政治生命は窮地に立たされるが、「起訴相当」以外ならば審査は打ち切りとなり、小沢氏は事実上、「無罪放免」となる。

 小沢氏側近は「検審が終われば怖いものはない。『政治とカネ』の追及も終わる。次なる戦いに向けた戦闘準備に移る。今回の代表選では、世論に動揺してグループ内から多くの離反者が出た。もっと、強い組織に作り替えていかなければならない」と語る。

 その現実的な課題は、後継者育成と選挙基盤強化だ。

 グループ内では「代表選で小沢氏を支持した原口一博総務相(51)や細野豪志幹事長代理(39)を『小沢氏後継』と位置付け、ポスト菅に備えようとの声も出ている」という。また、各議員の後援会組織を強化して、どんな逆風の中でも選挙で当選する地盤をつくる。こうした手法では、小沢氏の右に出る者はいない。

 今回の代表選が、途中で醜い中傷・スキャンダル合戦と化したことで、「小沢氏は相当激怒している。もし、敗れれば党分裂・離党に走るのでは」という見方もあった。だが、国会議員票で拮抗し、党員・サポーター票の得票数でも及第点を取れたことで、小沢氏は民主党内での復権にシフトしたようだ。

 菅首相は再選されたが政権基盤は盤石ではなく、参院で野党が多数を占める「衆参ねじれ」国会を乗り切る戦略はまだ描けていない。「菅政権は2011年度予算関連法案を成立させられず、来年3月に行き詰まる」(自民党幹部)との見方もある。

 小沢グループ中堅も「菅執行部がどうやるのかを見ていればいい。ポストもいらない。どうせ、この難局を乗り切る知恵も腕力もない。党員・サポーターに『まだ早い』と言われたのだから、小沢氏はしばらく静かにしている。少し早いが冬眠だ」と語る。

 菅執行部が行き詰まるまで、冬眠して力を蓄える作戦のようだ。

 こうした、小沢氏の真意を見抜いているのか、菅首相側近の江田五月参院議長(69)は14日の祝勝会で「『勝った、勝った』と鼻が高くなれば大間違いする」と警鐘を鳴らした。

 小沢氏の復活劇はあるのか。

 【一兵卒】一人の下級兵士。比喩的に、命令を受けて下働きをする者。(広辞苑

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100915/plt1009151605003-n2.htm