菅、仙谷、小沢の神経戦 引き換えに補正予算案採決へ

菅直人首相(64)が、国会軽視発言をした柳田稔法相(56)を更迭するとの見方が、政府・与党内で急速に広がっている。柳田氏1人のクビと引き換えに2010年度補正予算案の採決に持ち込むとともに、民主党政権に定着した「誰も責任を取らない」との悪評を払拭する一石二鳥の策を狙っているのだ。ただ、柳田氏を更迭すると不祥事閣僚の「辞任ドミノ」に発展する恐れもあるため、党内には慎重論も根強い。自民党が週明けの22日に提出する柳田氏の問責決議案をにらみ、ギリギリの神経戦が続いている。

 「深く反省して、今後、誠心誠意頑張りたいと言われているので、頑張ってもらいたい」

 菅首相は19日夜、首相官邸で記者団に柳田氏続投を明言した。昼には民主党岡田克也幹事長(57)と輿石東参院議員会長(74)と国会内で緊急に会談し、「辞任の必要なし」で一致。夜には首相公邸で岡田氏と再び会い、1時間以上にわたり対応を協議した。

 その一方で、柳田氏辞任=事実上の更迭に向けた地ならしも、着々と進んでいる。

 仙谷由人官房長官(64)は同日の記者会見で、問責決議案が可決した場合について「本人の意志だ。その時点でどういう意見なのか、状況次第で予測しかねる」と辞任に含みを残した。渡部恒三最高顧問(78)も「同情に値しない。(可決されれば)辞めていただくしかない。その前にも辞める選択肢がある」と述べた。柳田氏が所属する旧民社党グループの幹部も「問責決議案が出る直前に辞めるだろう」との見通しを示した。

 これに呼応するように、民主党幹部は水面下で自民党の幹部と会談。柳田氏更迭と引き換えに補正予算案の採決に応じるよう要請した。政府筋も天皇陛下の日程を宮内庁に問い合わせていることを認めた。後任法相の認証式のための調整とみられる。その後任としては、早くも菅グループ小川敏夫法務副大臣(62)らの名前が挙がっている。

 柳田氏の問責決議案が22日に提出されれば、24日の成立が確実。こうなると補正の審議はストップし、補正を自然成立させるためには12月3日までの国会会期を15日まで延長させる必要がある。

 民主党関係者は「仮に柳田続投で突っ走れば、問責は内閣の要である仙谷氏や馬淵澄夫国交相岡崎トミ子国家公安委員長にまで及ぶ。小沢一郎元代表の国会招致問題も蒸し返される。今後の国会運営は困難を極めるだろう。野党の顔を立てて柳田氏を『個人の資質』で更迭し、結果的に補正が早く採決されれば御の字だ」と話す。

 あくまで続投を強行するなら、誰も責任を取らない民主党政権の体質に対する世論の批判も予想される。民主党は19日、国会内で当選1回生議員を対象にコンプライアンス法令遵守)をテーマにした研修会を開いたが、終了後、ある議員は「柳田氏の辞任が先だ。どの大臣も辞めず、支持者からは誰も責任を取らない政権だと責められている。続投なら、菅内閣の支持率はますます下がる。小沢氏が言うように、“破れかぶれ解散”もあり得る」と苦しい心情を吐露した。

 それでもまだ、党内には野党の問責を突っぱねる強硬路線を主張する向きもある。野党の問責に屈する形で更迭すれば、これからのねじれ国会で野党が問責決議案をちらつかせるたびに、閣僚の更迭に追い込まれることになるためだ。

 民主党ベテラン議員は「いつまで野党共闘で審議拒否を続けられるのか。たとえば、公明党は補正審議に参加したくてウズウズしている。問責を無視する前歴をつくれば、ねじれ国会を乗り切るひとつの知恵になる」と話す。

 チキンレースは、ギリギリまで続きそうだ。

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20101120/plt1011201234001-n1.htm