国民総背番号制は必要?名ばかり高齢者大量発覚でフツフツ

最新の調査で、100歳以上の所在不明老人の数は全国で23万人以上に上ることが発覚した。家族による年金の不正受給も相次ぐなか、議論が再燃しているのが国民総背番号制の是非だ。住民基本台帳ネットワークが始まる際に導入が検討され、「監視社会につながる」などと大反対を食らって立ち消えになった制度。一部の賛成派が「やはり必要だ」と声を上げ始めたのだ。

 法務省は8月末、全国の市区町村に対し、戸籍に現住所の記載がない100歳以上の高齢者の調査を要請。その結果、全戸籍の9割にあたる約4743万件のうち、23万4354人が所在不明になっていることが分かった。

 最も多い2万2877人の不明者がいたのは東京。中央官庁が集中する千代田区でも同区に本籍を置いている1888人の不明者がおり、最高齢は1861年生まれ。生きていれば149歳の男性だ。

 「震災や空襲で戦前の戸籍が消失し、戦後すべてを作り直しました。それに、千代田区は国会議事堂や皇居など有名な施設が多い。本籍地は自由に決められるため、冗談半分で本籍を移し、その後所在が分からなくなったという例も結構あります」(同区職員)

 国の“中心”でさえ、こんな調子だ。これでは「長寿大国」の看板も怪しくなってくる。

 この所在不明問題を受け、にわかに盛り上がってきたのが国民総背番号制の議論だ。国民1人1人に番号を付与する制度で、個人情報の一元管理によって行政事務の効率化に役立つとされる。2002年に住基ネットの運用が始まった際、制度化の動きが出たが、「監視社会につながる」などと反発が出て立ち消えになった。その議論が不明高齢者の問題で復活してきたのだ。

 通産省OBで徳島文理大の八幡和郎教授(総合政策研究科)は「不明高齢者の問題が続出したことで、改めて省庁間と自治体の連携の弱さが露呈した。正確な情報の共有が国家運営にはなにより大事。今回の“事件”で改めてそのことに気づいた人は多いはずです」と指摘する。

 とはいえ、導入に懐疑的な声はいまだ多い。東京都杉並区のように、住基ネットにも反発して参加を見送った自治体も一部にあるほどだ。

 大阪経済大講師で、自治体情報政策研究所を主宰する黒田充氏は「プライバシーなどの問題もありますが、実はコスト面からも国民総背番号制の導入は非現実的です。情報の一元化は自治体ごとにやればいい。国税庁などは『脱税が防げる』と宣伝していますが、住民情報を把握したがるのは省庁の権限拡大のためという側面もあります」と語る。

 住基ネット運用開始前後には漏洩事件や省庁職員の不祥事などが続発し、それが不信感を助長した結果、国民総背番号制の議論がうやむやになったという経緯がある。今回は国民的な論議にまで発展するだろうか。

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20100913/dms1009131633020-n2.htm