菅、延命へ“イメチェン” 再選向け「笑顔」「低姿勢」

菅直人首相(63)がイメチェンを図っている。報道陣の取材に笑顔を見せることが増えたかと思えば、月末の臨時国会では、野党の求める予算委員会を開く方針に転じたのだ。参院選で大敗し、取材や国会論戦を避ける“逃げ菅”のレッテルを払拭したいのだろうが、現実主義者と言われる菅首相のこと。「おわび」名目で実力者と会談するなど、9月の民主党代表選での再選に向けた動きも加速させており、「政権を安定させるために低姿勢を演じているだけ」との指摘もある。

 参院選後は官邸を訪れる来客もめっきり少なく、公務がないからと“重役出勤”までしていた菅首相だが、16日夜にはようやく法政大の五十嵐敬喜教授らと会食し、2013年まで続投する意欲を示し、18日には豪雨被害に見舞われた岐阜県を視察した。

 民主党ベテラン秘書は「“官邸引きこもり”などと批判され、やる気をなくしているとの報道も出たため、なんとかイメージチェンジをしようとしているのだろう」と首相の心中を推し量る。

 さらに、首相の態度が目に見えて変わったのが、官邸で記者団の質問に立ったまま答える「ぶら下がり取材」だ。

 象徴的なのが、15日。小沢一郎前幹事長(68)の「不起訴不当」などについて通り一遍の回答をした後、秘書官が「はい、ありがとうございました。参ります」と打ち切ろうとした。

 このとき、記者が「硫黄島に関連して1問だけ」と問うと、帰ろうとした菅首相は立ち止まり、「4年前になりますけども〈中略〉特命チームをつくって、一日も早く遺骨を収集して…」と1分近く話し、「遺骨収集チーム」のPRをしたのだ。最近は、笑顔も増えてきた。

 また、政府・民主党は30日召集予定の臨時国会では、衆参両院で予算委員会を開く予定だ。これは野党が求めていたもので、「ねじれ国会で、野党との強調路線を確立しないと法案が1本も通らない」(民主党国対幹部)ため、譲歩した格好だ。

 党代表経験者などの実力者に対し“おわび遍路”も行い、自らが「静かにしていて」と政権中枢から排除した小沢氏にも「おわびを含めた報告」(菅首相)を打診している。

 菅内閣の閣僚の間でも、「熟議」という言葉が流行し、野党に国会での議論を呼びかける低姿勢ぶりが目立つ。

 この変身は、参院選前の菅首相の姿勢からすれば、コペルニクス的転換だ。

 菅首相は副総理・財務相時代の3月16日、参院内閣委員会で、自民党古川俊治参院議員の質問に対し「議会制民主主義というのは期限を切ったあるレベルの独裁を認めることだ」と言い放った。そして、菅内閣誕生後は、額面通り取られてもおかしくない政権運営をしてきたためだ。

 例えば、先の通常国会会期末では、政権発足直後にもかかわらず予算委員会を開かずに閉会。また、小沢氏には「しばらく静かにしていただきたい」と発言し、閣僚や党執行部の要職から小沢系を排除した。消費税増税については、党内議論もなく「10%」とブチ上げ、ぶら下がり取材も、一方的に「1日1回」に減らした。

 しかし、冷ややかな視線もある。

 22日に告示される参院議員会長選では、小沢氏に近く野党とパイプがあるとされる輿石東氏の留任が有力。予算委員会も野党の求める衆参3日ずつではなく1日ずつに短縮する方針だ。そのため民主党ベテラン議員は「反菅に回りかねない人たちを取り込み、野党の顔を立てつつ論戦は最小限にとどめる。すべては9月5日の民主党代表選で再選されるための地盤固めと、その後の政権運営だけを見ている」と話した。

 菅首相は野党時代、ときに激しい口調で政府・与党を攻撃することから「イラ菅」と言われた。その後、首相ポストが見えてくるとコメントを避けて政権が転がり込むのを待つ「ダマ菅」になり、首相になると論戦を避ける「逃げ菅」に。政策面では、財務相就任前は消費税増税は「逆立ちしても鼻血も出なくなってから」と豪語していたにもかかわらず、1カ月で消費税増税をブチあげる転向ぶりを見せた。

 時に応じてキャラクター変えることから、永田町では「現実主義者」と好感する向きもあれば、中身のない「空き菅」と揶揄する声もある。

 政治評論家の有馬晴海氏も、「本来であれば衆院選マニフェストを履行することで信頼を勝ち取らなきゃいけないのに、それができないから、人気取りに走っている。野党向けに協力を呼びかけるためのポーズでもある。菅首相は『自分が一番すごい。優秀な俺が言っていることがなぜ国民には分からない』と思うような自信家だ。反省しているはずがない。政治的な嗅覚で、姿勢を変えている」と切り捨てた。

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100721/plt1007211628004-n2.htm