総理はなぜ1年で辞めるのか

タイトルを読んで、『若者はなぜ3年で辞めるのか』という本のパクリじゃないかと思った人がいるかもしれない。いや実際そうなんですけど、いいんですよ僕の本なので。というわけで、首相はなぜこうもポンポンお辞めになるのかを考えてみた。
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長期停滞の根幹にある制度疲労
よく言われているように、日本の首相は米国などの大統領制に比べて権限が弱い。議院内閣制で議会に対して責任を負わねばならず、両院でほぼ2年おきに国政選挙があるから、そのたびに勝ち続けないと政権基盤は安定しない。
言いかえれば、過酷な大統領選と強大な権力がセットになっているアメリカ型に対し、選挙抜きで割と簡単になれるものの地位は不安定という具合に、バランスを取っているわけだ。
ただし、それでも最近の「4年間で5人目」という首相交代は、90年代と比べても早すぎる。ここまでペースが加速した理由とは何だろうか。
90年代以降の日本の長期停滞の背景には、55年体制の制度疲労が根幹にある。簡単に言うと、高度成長期そのままのシステムが、政治から経済にいたる幅広い分野に残ってしまっているため、様々な面で社会の発展を阻害しているのだ。
たとえば、90年代からバカの一つ覚えのように続けてきた財政出動によるバラマキが典型だ。これは、従来の日本社会が「終身雇用」という形で、セーフティネットを企業に丸投げしてきたため、迂闊に企業を倒産させられないという事情による。
おかげで財政危機になるわ、産業構造の転換は進まないわで、雇用問題というのは地味なテーマではあるが、非常に重要な課題だと言える。
そういう意味では、90年代以降の政権というのは、バラマキにせよ為替介入にせよ、要するに古いシステムを誤魔化し誤魔化し延命させてきたと言えるだろう。
有権者は「誤魔化し」を支持しなかった
ほぼすべての政権が誤魔化しに終始する中、唯一構造的な改革を志向した小泉政権だけが4年半持続したという事実は重要だ。一方で、改革から誤魔化しに回帰する傾向を見せたポスト小泉政権は、結果的にどれも1年前後しか維持できなかった。
要するに、もはや状況は誤魔化しを許す段階ではなく、有権者は大勢ではそういった判断を下しているということになる。
その点にまったく気づかないまま、「行き過ぎた市場重視を云々」と言って規制強化、民から官の流れを起こそうとした鳩山政権が、在任8カ月でスピード墜落したのは、当然と言えば当然かもしれない。
「国民が聞く耳を持たなくなった」のではなくて、最初から鳩山さんが勘違いしていただけの話だ。とりあえず菅総理には、
「なぜ鳩山さんは8カ月で辞めたのか」
を真剣に考えてみることをおススメしたい。でないと同じことになりますから。
とはいえ、鳩山さんが潔く身を退いた点は評価したい。すぐに辞める新人よりも、なかなか辞めない政治家の方がずっと困りものである。
城 繁幸
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