古代史の舞台になった峰々 霧島山・1700メートル

霧島という山はない。宮崎と鹿児島両県にまたがる山系の総称である。20を超す火山群が密集している。古代史の舞台でもある。山群の最高峰、韓国岳(からくにだけ)から新燃岳(しんもえだけ)を経て高千穂峰へと連峰の核心部を歩いた。前夜の激しい雨は上がったが、韓国岳は濃い霧の中だった。山頂から垂直に落ち込んでいる巨大な火口は底まで300メートル、だが、わき上がる霧で見えない。
 森林限界は標高1400メートル。水はけが良過ぎる溶岩砂礫(れき)が木の育つ環境をつくっていない。独立した山域には常に強い風がぶつかっている。こんな低栄養の土地にしがみつくようにして生えているのが、ミヤマキリシマである。劣悪の環境を選んだ。条件のいいところでは、成長の早い木に負けてしまう。
 霧島神宮古宮跡からは高千穂峰へ一気の上りだ。鉄分を多く含んで赤い溶岩礫はズルズルと滑って歩きにくい。お鉢からのぞく火口は迫力満点の大きさと深さだ。
 寺田屋騒動の後、傷を癒やすための湯治に来ていた坂本竜馬が妻のお龍を伴って高千穂峰に登ったのは慶応2(1866年)の春だ。お鉢から馬の背をいく。両側は「左右目が届かぬくらい下がかすんでおります。あまり危なっかしいので、お龍の手を引いてやりました」と姉の乙女に書き送った。新妻へのいたわりがほほ笑ましい。
 高千穂峰天孫降臨伝説の地である。山頂に天の逆鉾が突き立っている。竜馬夫妻は逆鉾に「思いもかけぬおかしな顔つきの天狗(てんぐ)の面があり」と2人で大笑いをし、引き抜いてみたという。
 韓国岳からの冬枯れの道を目でたどった。伸びやかな起伏が心地よい。春には、ミヤマキリシマのピンクやマンサク、シロモジの黄色が山肌を染め上げる。きっと心が浮き立つ光景に違いない。(ジャーナリスト・米倉久邦、2005年01月26日記)
霧島山行程
 11月28日
 8時50分 えびの高原駐車場
 10時5分 韓国岳  
 13時40分 高千穂河原
 15時   高千穂峰
 16時10分 高千穂河原
 (2003・11・28)

http://www.47news.jp/localnews/mountain/column/2010/01/post_20090907130248.html