菅、小沢説得失敗「馬鹿な事を…」懐柔策も相手にされず

9・14民主党代表選は、菅直人首相(63)が悲願の再選を果たすため、「3年間は総選挙をしない」「小沢一郎前幹事長(68)の力も借りる」などと吹聴し始めた。「小沢チルドレン」と呼ばれる1回生議員や小沢支持グループを懐柔するためのクセ球だが、永田町玄人が多い小沢支持グループでは「何を馬鹿なことを…」とほぼ見向きもしない。グループ内では、小沢氏の出馬を促す主戦論が強まっている。

 「選挙のたびにいろんなことが政局的に動き、日本の改革を遅くしている。3年間しっかりやらせてもらいたい。3年後に、衆参ダブル選挙でやればいい」

 「小沢さんは独特な個性を持った政治家。トランプでいえばジョーカーだ。その手腕が必要なときもあるだろう。政治家として高く評価している」

 23日から始まった衆院議員会館5階の自室で開かれた意見交換会菅首相は昨年の衆院選で初当選した1回生議員らにこう語りかけた。自身の政治経歴をつづった著書に、出席者の名前を入れてプレゼントする厚遇ぶりに、満足そうにうなずく1回生議員もいたようだが、首相発言が「現実離れ」しているのは常識だ。

 まず、3年後の衆院選が考えにくい。先の参院選大敗で、民主党国民新党などの参院与党は110議席参院過半数を確保するには12議席を他党との連立などで補う必要があるが、菅首相や「影の宰相」こと仙谷由人官房長官(64)率いる現執行部は、参院選から2カ月以上過ぎても、連立への道筋どころか、参院議員1人も引き抜けていない。

 現状では、予算と条約以外は法律1本も成立させることはできず、円高で日本経済をけん引してきた輸出産業が弱体化する中、予算執行に必要な関連法案が通る見込みもない。このため、小沢支持グループ内では、「いまのままなら不可能。(来年の通常国会では)衆院解散と引き換えに予算を通していただくことになる」(山岡賢次副代表)などと突き放している。

 小沢氏の要職起用も怪しい。

 菅首相側近とされる荒井聡国家戦略相(64)が「挙党体制の構築」を主張し、先週19日に長野県軽井沢町にある鳩山由紀夫前首相(63)の別荘で開かれた鳩山・小沢両グループの懇親会にも出席したが、菅支持グループの主要構成メンバーの考えは違う。

 仙谷氏を筆頭に、菅首相の再選を支持する枝野幸男幹事長(46)や前原誠司国交相(48)、野田佳彦財務相(53)らは、「脱小沢」「反小沢」を掲げる「民主党七奉行」の面々であり、グループ内からは「民主党に求められているのはクリーンな政治だ」(蓮舫行政刷新相)、「人事は代表の専権事項。勝った者が決めればいい」(中堅議員)などと、代表選後も「小沢外し」を求める声が大勢だ。首相を支える党幹部の1人は「菅さんは余計なことをすぐに言う。殴りに行こうかと思った」とさえ述べている。

 このため、小沢支持グループの若手議員は「菅首相は再選するため口八丁手八丁で必死だ。新人議員相手なら、ウソをついていいと思っているのか」と不快感を隠さない。

 当初、菅支持グループと小沢支持グループのつばぜり合いは、代表選後のポストや政策をめぐる「条件闘争」とみられていたが、ここに来て、様相が変わりつつある。かつて、小沢氏が解党した「新進党」の因縁の代表選に似てきたのだ。

 1995年12月の新進党代表選は、小沢氏と、盟友だった羽田孜元首相(75)が激突する、激しい選挙戦となった。この代表選も当初は条件闘争とみられていたが、代表選前のマスコミ報道などで、両陣営とも抜き差しならなくなった。世論調査では羽田氏の人気が高かったが、議員票とサポーター・党員票を幅広く集めた小沢氏が圧勝し、約1年後に羽田氏らは離党。新進党解党のきっかけとなった。

 今回も、菅支持グループと小沢支持グループの間には、修復不可能なしこりが生まれつつあり、小沢支持グループは主戦論に傾きつつある。

 小沢氏の盟友の1人で、新進党時代も行動をともにした西岡武夫参院議長(74)は23日、国会内で緊急会見を開き、こう語った。

 「敗者が勝者から党の要職か閣僚ポストを与えられるのは茶番劇だ。政権政党が甘っちょろい、陳腐な就職運動劇をしている余裕は、断じてない。現首相をけ落とそうとするのだから、敗れた場合の立場は惨めでなければ理屈に合わない。党を去ることも選択肢に入る」

 小沢氏に、条件闘争ではなく、離党含みで代表選出馬の覚悟を促したものとみられるが、剛腕政治家はどう判断するのか。

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100824/plt1008241623005-n2.htm