激震2010 民主党政権下の日本】首相、エコノミスト選びも「菅違い」?

菅直人首相は、副総理兼財務相時代から参院選前まで「増税しても、政府が使い方を間違わなければ、景気は良くなる」と言っていた。これは、小野善康大阪大学教授のアドバイスによるものだが、最近は聞かれない。実は、増税してもそれを使うわけで、財政再建にはすぐに結びつかず、その後に景気が良くなってからという話だ。

 もっとも、小野教授のロジックには、かつてこのコラムでも書いた(本紙4月21日号参照)ように、政府が全知全能であることが前提というあり得ない重大な問題点がある。その欠陥にあえて目をつぶれば、「財政再建のためには経済成長させる」という常識の一線は守られていた。

 ところが、今度、内閣府官房審議官になるというエコノミストの水野和夫氏は、この一線さえ超える独特の経済観をもっている。「100年デフレ」の著作もあるが、21世紀は世界中がデフレになるという論調だ。一見豊富なデータを提示しているようだが、歴史物語への味付け程度のもので、数量分析はできない。いわゆる世界システム論の経済分野バージョンのように思える。なお、これまでのところ、世界中はデフレではなく、日本だけがデフレである。

 また、水野氏は、日本だけはもう成長できないという衰退論者でもある。たしかに、ここ15年くらいは日本だけが成長していないが、水野氏の理由は明らかでない。さらに、デフレ脱却より財政再建を優先するというユニークな政策を主張している。水野氏とはこれまで対談やテレビで一緒にさせてもらったが、これまでの主張は、一言でいうと社会主義的な反経済成長思想である。

 水野氏が就任すると予定されている民間人ポストは、小泉政権時代に竹中平蔵経済財政担当相が作ったものだ。初代は審議官ではなくその上の局長級の統括官ポストだった。当時経済政策の司令塔であった経済財政諮問会議に提出する民間議員ペーパーのドラフト作成など政策決定にも関与してもらう予定だったが、実際、民間人からいきなり局長ポストに来ても実務知識が不十分で、政策決定に関与することができず、徐々に経済分析と広報関係の仕事にシフトしていった。2代目以降は審議官クラスとなり、ほとんど政策決定からは関係ない仕事になった。

 現在の体制は承知していないが、経済財政諮問会議のような経済運営の司令塔もないことから、水野氏は経済分析と広報関係の仕事がメーンになるのではないだろうか。ただ、政府は成長戦略やデフレ脱却を掲げているわけで、それらの説明では、従来の自説を曲げなければならないだろう。

(嘉悦大教授、元内閣参事官高橋洋一

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100811/plt1008111604001-n2.htm